KIPLINGER AGRICULTURE LETTERのバージョン

政府は持株会社の株式を、持株会社は銀行・保険両社の株式を段階的に売却していく。
そして17年には、郵貯会社と保険会社の株すべてを民間市場に売却することにしている。 ただしこの法案を、「民営化」が不十分だとして批判する立場もある。
電電公社の民営化においては、「分離・分割」と「民営」の双方が課題であった。 ジャーナリストの町田徹は、改革をリードしたN初代社長のSが、当初腹案としていた都道府県別の47分割案を断念し、株式会社化という意味での民営化のみを優先したと指摘している。
それが今日の巨大独占企業・Nを誕生させ、高いままの固定電話利用料金や数年後に無効化されるのに払い戻しのない加入料など、競争下ではありえない通信業界の状況をもたらす原因となった。 こうした過去の例を想定する限り、民営化に際しては、たんに株式会社化するのみならず、「分割」によって競争環境を作ることが課題であるかに見える。
実際、郵政事業に対しては、民営化による「焼け太り」、すなわち巨大独占企業化が心配されてきた。 巨大独占が生じるなら、民営化で言い逃れができるだけにむしろタチが悪い。

けれどもNにせよ、Sなどが仕掛けた値引き競争によってADSLの通信料金はアメリカよりも安くなったし、固定電話も値引き合戦が加熱している。 分割そのものを目指すのでなくとも、競争が起きる環境を作りさえすれば、少なくとも安価なサービスを求める消費者にとっては有利に働くだろう。
それゆえ政府の「基本方針」では、分割は最重要事とはみなされなかった。 三事業を窓口サービス、郵便、郵貯、簡保の4事業に分け、持株会社のもとで分社化することとなったのである。
これによって事業ごとの損益が明確化され、リスクは遮断される。 つまり、郵便が赤字になっても郵貯で負担するといったリスクが避けられる。
また、郵便、郵貯、簡保の三事業について、民間企業と競争条件を均等にすることができる(イコール・フッティング)。 そして、郵貯から財政投融資や国債に流れていた資金を、民間への貸し出しという形で戻すことができる、というのである。
無駄遣いにかんして言えば、郵貯はかつての大蔵省に預託され、特殊法人などに融資されていた。 だが2001年の財政投融資制度改革で、郵政の資金自主運用によって郵貯は財政投融資からすでに切り離されており、民間に流れている。
特殊法人とのつながりは切れているのである。 これまでに預託した資金も07年までに返還される予定である。
改革は、すでに完了してしまっているのだ。 財投の規模もピークだった98年の43兆円から17兆円に激減している。
それゆえYが04年9月に行った全国世論調査では、郵政改革が多くのエコノミストの支持を集めるのとは対照的に、一般国民からは顕著な評価を受けていない点が目立っている。 郵便・郵貯・簡保三事業の民営化に賛成する人は38%、反対は25%、「どちらともいえない」は34%であった。
これだけを見ると支持する人の割合が大きいかに思われるかもしれないが、財投改革が論議された01年8月の前回読売調査と比べ賛成は17%減、反対は1%増、「どちらともいえない」は15%も増えている。 つまり賛成派から「どちらともいえなど派と反対派に、16%前後が鞍替えしたのである。

郵政が民営化されたとしても、それ以上の画期的な変化は期待されなくなったのだ。 高速道路問題のように赤字を押してまで不要な地域に新規建設されるといった無駄が目に見えてありはせず、現状のサービスにも不満があるわけではないからだろう。
民間に融資するために民営化が必要なのだという説については、企業が貸し渋りに備えて銀行から融資を減らし、返済に専念してきたことをどう考えるのか。 企業は97年からは黒字主体になり、過剰資金の使い先に困ってさえいる。
郵貯にかんしては、民営化すれば巨大銀行が誕生することにな、オーバーバンキングの論理で銀行の数減らしに躍起になってきた金融行政とは根本的に矛盾してしまう。 しかも借り手からすればこの10年、民間銀行は貸し渋りの権化であったわけで、郵貯までがその仲間入りするというのには割り切れない思いがある。
そもそも90年代からの経済不振がバブル破綻によるものだとすれば、それは民間金融機関の暴走によるものであった。 郵貯までがバブルにさらされていたら、もっと悲惨な結果が待ち受けていたはずだ。
また政府が溜め込んだ莫大な累積赤字は、国債として多くが郵貯で買い支えられている。 それが良くないという説もあるが、それは国債発行を続ける財政の問題であり、そうした財政を野放しにしているK政権も同罪だ。
それに、現在の状況のままで郵貯が買い支えなくなったら、国債価格は暴落し、金利は上昇するだろう。 下手をすれば、経済全体が破綻すらしかねないのである。

根本的に必要なのは財政改革なのだ。 そのうえ民営化論には、「市場」を効率性のための道具と考える構造改革論と同様に、大きな見落としがある。
第1に、郵便事業や郵貯の利用者は、安価さだけを求めているのではない。 過疎地では郵便局網が拠点維持されるかどうか不安が持たれている。
これは郵便局に全国一律のサービス(ユニバーサルサービス)を求めているということであり、郵便事業が民営化後もその期待に応えようとすれば、なんらかの公的補助もしくは強制が必要になる。 また、現在津々浦々まで築き上げられてきた窓口ネットワークという資産を放棄してしまうことへの懸念もある。
身近な郵便局が統廃合されることについては、不満を覚える人が多い。 第2に、郵貯・簡保に対しては現在、政府が預入額を全額保証しているが、民営化後はペィオフの対象となるだろう。
それにより資産の安全を確保できる金融機関がなくなるわけで、これも国民のニーズに一致しない。 この間政府は、個人資産を預金からリスク性資産に振り向ける「直接金融化」に躍起になってきたが、郵貯を民営化することでそれが実現すると考えるのは短慮にすぎる。
ダンス預金に回る可能性が捨てられないからで、実際ここ数年はそうなっていた。 国民はベィオフを受けず預金を確保できるような安全な金融機関を求めている。
資産をローリスク・ローリターンで維持できることは、高齢者が求めることでもあるだろう。 かつての郵貯のように民間ではありえないほど高い利子を付けたりしなくとも、依然として公共金融機関には存在意義がある。
国民が不確実性を回避したいと願っているのに、それを阻止するために回避先を次々に潰すというのは倒錯した政策である。 国民にリスクの負担を求め民営化に血道を上げたところで、不確実性という根本を絶たなければ、国民の行動は変わらない。
総じて、郵政事業に対して国民は、効率性だけでなく「安心」という観点からも評価していたのである。 そして安心は、民営化によっては与えられないとも考えている。

この点の理解が、改革論には抜けている。 つまり、安心が公共財となってきたということだ。
過疎であっても、身近に郵便局があるという安心。 貸し渋りが蔓延するなか、社会的見地から融資される安心。
資産が失われないよう銀行の倒産可能性を絶えず気にかけなくてよいという安心。

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