帝人は、繊維・フィルム・樹脂・医薬医療など幅広いビジネスを先物取引 する企業グループである。同社は成長が見込まれる「自動車・航空機」、「情報・エレクトロニクス」、「ヘルスケア」、「環境・水・エネルギー」、の4分野を注力市場と位置付けており、研究開発活動を活発化させている。帝人知的財産センターは帝人グループの1社であり、グループ全体の知財戦略を策定・実行している。注力市場の事業運営に関して、知的財産センターが果たしている役割について聞いた。 8つの事業グループと連携、担当者を配置 帝人知的財産センター 代表取締役社長 三原 秀子 氏 帝人は、2003年4月に持株会社化した。これに伴い、各事業部門を事業会社化して7つの事業グループに編成、同時にスタッフ部門も個別管理会社化した。知的財産部門は「帝人知的財産センター」として独立した。 各事業グループは、それぞれの事業分野に関する技術を研究開発している。これらに加え、持株会社である帝人には「新事業開発グループ」があり、5〜10年先を見越したテーマを研究している。知財センターは、これら8つのグループと連携し、知的財産戦略を策定・実行している。 先物取引 センターには、現在、約40名の社員がいる。その内、弁理士資格を持つ社員は7名と、同センターに占める日経225 の割合は比較的高い。「帝人グループには、“資格取得援助制度”があり、社員は資格の取得に積極的」(三原氏)。 知財センターでは各事業グループに対応させて知財の担当者を配置し、この知財担当者と各グループの研究所担当者などとが一緒になって、定期的に「特許検討会」を開催している。特許検討会では、他者特許の侵害、権利の確保、権利範囲の拡大などを議論し、自社特許ポートフォリオの充実に努めている。特許検討会以外に、研究開発責任者の下で知財責任者が参加し、マーケティングのニーズ゙を反映しつつ、定期的に開催する「特許委員会/商標委員会」で知財の方針を検討し実行策を確定する。 さらに重要度が高い技術テーマについては、各事業グループのCTO(Chief Technology Officer)の下、帝人の研究戦略、知財戦略、研究人財戦略、技術マーケティング戦略を策定する「グループ技術戦略会議」において、事業戦略・研究戦略と整合する知的財産戦略の点から定期的にレビューして、知財対応の見直しを図っている。これらの活動の結果、2007年の国際特許出願数が、2006年と比べて約1.2倍に増加した。 知財センター代表取締役社長の三原秀子氏は、センターの活動について「知財で事業を優位に進めることを重視している」とポリシーを語る。知財センターは、研究開発ロードマップの策定段階でも、特許マップなどの情報を提供している。 特許明細書の作成にあたっては、各事業グループの研究者が第1稿を作成する。これをベースに知財センターの技術系社員が内容を精査し、完成度を高めていく。技術系社員の前歴は、研究職であることが多く、研究開発の内容を熟知している。特許出願、中間処理、権利化、国際出願、訴訟対応なども1人の社員が一貫して担当する。 また、各事業グループの研究者に対して明細書の書き方や先行事例調査などを教育する講習も年1回〜複数回開催している。講習は内容がレベルアップするように設計し、研究者の知財に対する意識を高めるべく、活動を行っている。
重点研究・開発分野は優先的に対応、総合的に知財を評価 帝人グループでは重点的に研究開発に取り組む“重点研究・開発分野”を設定している。これは注力市場の4分野に加えて「高熱伝導材料」、「バイオプラスチック」、「高機能電子材料」、「水処理分野」が該当する。知財センターは、当該分野に関しては優先的に対応する。当該分野は、製品化に近いものから基礎研究段階のものまで、さまざまなステージが存在する。製品化が間近な分野で障害を発見した場合、速やかに障害を取り除く必要がある。「スピードを要求される場合は、外部のリソースを活用するなど柔軟に対応し、最善を尽くす」(三原氏)。 知財センターでは、各事業グループの担当部署とともに、知財で事業を優位に運営するために、定期的に各事業グループの知財を評価している。主な評価項目は、(1)実施・未実施、(2)他社へのインパクト、(3)ライセンスの可能性、である。(1)に関しては、実際に使用しているかを見る。未使用であっても(2)のように他社の参入障壁として機能している場合もある。(3)に関しては、他社から特許侵害警告を受けた場合、クロス・ライセンスなど交渉の道具として使えるかどうか、などを評価する。「将来的には、国内外の事業の状況や社会の趨勢を含めた総合的な評価をしていきたい」(三原氏)。 海外へ積極展開 技術ライセンス供与は、“稼ぐ”ことではなく、事業拡大が第1目的 帝人グループ全体としては、海外へ積極的に事業展開していることもあり、近年、海外事業を円滑に進めるための特許出願が増えている。 自社の主力製品が素材で、さらにBto Bということもあり、今のところ模倣品の被害はほとんどない。しかし、今後は事業の拡大に伴って警告や訴訟を起こす(受ける)可能性もある。こういった事態に対処するために、知財センターでは、出願地での知財情報の収集に尽力している。「国によっては特許公報などが正しく公開されなかったり、オンライン検索ができない場合もある。その場合は、現地の信頼できる調査会社を利用して情報を収集する」(三原氏)。 2008年7月にグループ企業である帝人ファイバーが、アジア最大規模のポリエステル・メーカーに対して重金属をまったく含まないポリエステルポリマーに関する製造技術をライセンス供与した。今回は、PETボトル用樹脂に関する技術ライセンス契約を結んだ。ポリエステル繊維用ポリマーについても、当該技術ライセンスを供与する基本的な合意がなされている。また、将来的にはPETボトル用樹脂、ポリエステル繊維のOEM生産も視野に入れている。今回のライセンス契約を機に、さらにアジア・欧米の企業へもライセンス供与を広げ、世界的に自社技術・製品の普及を図る。「“稼ぐ”ことではなく、事業を拡大することが知財の第1の目的」と三原氏は知財の存在価値を強調する
2002年4月に東京工業大学発ベンチャー企業として設立されたジェノメンブレン(横浜市)。同社は、細胞膜表面にある膜タンパク質である“トランスポーター”技術と特許などを集約する知的財産戦略を実行し、日本を代表するバイオテクノロジー系ベンチャー企業の一つに成長しつつある。 トランスポーターは、糖やアミノ酸、タンパク質などのいろいろな物質を細胞内に取り込んだり、細胞外に排出する機能を発揮する膜タンパク質だ。トランスポーターが注目される理由は、薬剤分子を細胞内に取り込んだり、細胞外に排出したりする機能の応用だ。創薬企業が苦労して新しい薬剤を開発しても、細胞表面のトランスポーターがその当該新薬を細胞内に取り込まなかったり、細胞外に排出してしまうと、薬としての効果を大きく左右してしまう。このため、新しい薬を開発する早い段階でヒト細胞のトランスポーターとの相性を判断する必要がある。 ジェノメンブレン代表取締役社長の藪内氏に、トランスポーターの総合解析技術事業を目指す同社の戦略について聞いた。 ――ジェノメンブレン創業の経緯は。 ジェノメンブレン 代表取締役社長 薮内 光 氏 当社は、2002年4月1日に設立されました。この当時、私は東工大大学院生命理工研究科の助手として薬剤輸送体であるトランスポーターを研究していました。細胞表面の膜タンパク質としての機能を実用化できれば、独創的な事業になると感じていました。 当時、東工大関連の承認TLO(技術移転機関)だった財団法人理工学振興会の渡辺孝理事(当時、現・東工大大学院特任教授)からトランスポーター関連のベンチャー企業創業の話を聞いて、東工大をすぐに退職し、ジェノメンブレン設立に参加しました。元々、大学院の学生のころから、新技術を事業化するベンチャー企業に関わりたいと考えていたからです。 創業当時の社長には北村公一さんが就任しました。製薬企業の三共出身の方です。渡辺さんが2代目の社長に就任し、2004年2月に私が3代目の社長に就任しました。 ――トランスポーターの技術や特許を集め始める戦略を始めたのは。 創業当時、薬剤輸送体としてのトランスポーターは盛んに研究されていましたが、その実用化・事業化を積極的に考えている方は不思議とまだ少ない時代でした。それならば、「今のうちにトランスポーター技術や特許を集めて、トランスポーターの中核企業にいち早くなろう」と考えました。特許も関連特許を含めてパテント・プール化した方が、ユーザーは使いやすいですから。 トランスポーター技術を集める過程での代表的な技術移転事例は、2004年10月の九州大学大学院医学研究科の桑野信彦教授(当時、現・久留米大学医学部教授)と和田守正助教授(当時、現・長崎国際大学医学部教授)の研究成果であるMRP2トランスポーターについての特許です。 トランスポーターには、細胞内に物質を取り込む「SLCトランスポーター」と細胞外に排出する「ABCトランスポーター」の2種類があります。このヒト型MRP2トランスポーターは、薬物排出型のABCトランスポーターです。九大大学院の教員グループが遺伝子配列を決定し、特許出願していました。特許庁が一時は特許の拒絶査定を下したものを、九大の知的財産本部と承認TLOの産学連携機構九州(福岡市)が苦労して特許を成立させたものでした。 2004年の夏ごろから知的財産本部の担当者と話し合いを始め、その年の10月ごろに当該特許を専用実施権という形で技術移転を受けました。この技術を基に、当社はABCトランスポーター試薬の1つとして製品化し販売しています。このMRP2トランスポーターは最近、腎臓や肝臓の排出作用の役目が注目を集めています。
――このほかの技術・特許の集約活動は。 代表的な事例としては、2005年6月ごろに、金沢大学大学院医学系研究科の辻彰教授(当時)グループの研究成果であるヒトの疑似細胞となる「アフリカツメガエル卵」の技術移転を受けました。辻教授は日本のトランスポーター研究の草分けの1人で、アフリカツメガエルの卵細胞(卵母細胞)にヒト細胞のSLCトランスポーターを発現する遺伝子を注入し、ヒトの疑似細胞を開発しました。このヒト疑似細胞を利用すると、創薬開発時に当該薬剤がヒトの細胞に取り込まれやすいかどうかの判定ができます。 この辻教授グループの研究は、科学技術振興機構(JST)の育成研究課題に採択され、大きな研究成果を上げました。この時点で当社は共同研究に参加しました。その研究成果に基づく特許の技術移転を受け、当社はSLCトランスポーター試薬として製品化しました。 2005年8月ごろには、東北大学大学院医学研究科(現・医工学研究科)の阿部高明教授の研究グループが研究していたOATPRトランスポーターの技術移転を受けました。SLCトランスポーターの1種で、抗ガン剤を効率的に吸収する効果などが大腸ガンの診断技術に利用できるとみています。この技術移転では、東北大の承認TLOである東北テクノアーチ(仙台市)の担当者と綿密に交渉しました。3件の特許の独占実施権契約を結びました。 ――岡山大TLOからも技術移転を受けています。 2006年8月ごろのことです。岡山大学大学院医薬学総合研究科の森山芳則教授の研究グループが研究していたMATE1というSLCトランスポーター技術です。岡山大関連の承認TLOの岡山産業振興財団(通称、岡山TLO)から技術移転を受けました。当初、特許の実施権2件を受け、その後1件を追加しました。このMATA1トランスポーターは腎臓や肝臓に対する薬物の影響を調べられるものです。 このように、さまざまな大学・大学院からいろいろなトランスポーター技術・特許の技術移転を受け、トランスポーター技術を集約した結果、当社は元々は東工大発ベンチャー企業でしたが、現在は国内・国外とネットワークを持つ“国区のベンチャー企業に成長したと自負しています。 また、大学・大学院の研究成果に基づく特許の技術移転に加えて、企業からも技術移転を受けています。例えば、中外製薬からヒトOCTN1と同2というSLCトランスポーターに関する特許の実施権を受けています。こうした技術移転を受けた技術を基に、各トランスポーター試薬や試験キットなどの製品に仕上げて事業化しています。また、新薬などのトランスポーターへの解析の委託試験を引き受ける事業も展開しています。 試薬や試験キットを外部企業に製造を委託するなどのアライアンスを組んで、事業化を迅速に進める工夫もしています。 ――ベンチャーキャピタルからの出資は。 当社は現在、ベンチャーキャピタル5社から出資を受けています。当社の事業可能性を評価していただいた結果です。日本テクノロジーベンチャーパートナー(NTVP)、ジャフコ(JAFCO)、三菱UFJキャピタル、東京中小企業投資育成、香川銀キャピタルの5社です。 NTVPからは、森拓也氏が取締役に就任しています。創業直後にお目にかかったNTVPの村口和孝代表からは「ベンチャー企業として小さくまとなるな」との助言をいただきました。トランスポーターは大きな事業に成長できる可能性を秘めているのだから、目の前の小さな収益に惑わされず、大きな事業を心がけた事業計画を立てて実行しろとのことでした。 ――公的な支援は受けていますか。 当社は現在、横浜市の財団法人横浜企業経営支援財団が運営するインキュベーション施設の横浜新技術創造館(横浜市鶴見区)に本社を構え、同財団から「株式公開型ベンチャー企業」の認定を受けるなどの支援を受けています。また、2004年に経済産業省傘下の中小企業庁の「平成16年度中小企業経営革新等対策費補助金」(通称:創造技術研究開発事業)に採択されました。こうした公的な支援を受けている内に、有力なベンチャー企業に成長する計画です。 当社は、2007年には欧州や米国、韓国、中国の企業と薬物トランスポーター関連製品の販売代理店契約を結び、販路の国際化を進めています。こうした事業化努力を続けている中で2006年9月に、米食品医薬品局(FDA=Food and Drug Administration)が製薬企業向けガイダンスを出しました。この中に、新薬開発時にトランスポーターによる薬物相互作用を確認する指針が示され、トランスポーターは脚光を浴びつつあります。この順風を受けて、当社の単年度黒字化と将来のIPO(新規株上場)をできるだけ早く実現したいと考えています